廃虚

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意識の輪廻転生 インベスターZ感想

※この作品を読んだだけで投資を始める人間の大半はまさしく典型的な日本人です

 インベスターZとは,2013年からモーニング(講談社)で連載されていた漫画であり,昨年完結した漫画です。最近ではKindleでの階段式セールを行うなどして,何と1巻は1円で販売され大きな話題を呼び,2018年からはドラマも放送されました。

 

輪廻転生

輪廻転生

 

 そんな本作は北海道にある中高一貫校「道塾学園」に入試満点でトップ合格した主人公の財前孝史が,道塾の運営費を130年間の間秘密裏に稼いでいた投資部に強制入部させられた事をきっかけに,投資について,社会について,そして人間について学んでいき,多くの人々との出会いのなかで人間として大きく変わっていくことになるという物語です。

 この作品はお金に関する情報という一見とっかかり辛いテーマを,人によっては最初は不快感を感じる正論(ともすれば極論)を敢えて使うことで読者の意識を集中させ,理屈を合理的に理性的に示すという技術にとても長けています。例えば

一流になれない事で頑張ることに価値なんか無い

 

人生は尊く重いなど市民派を気取るエセ文化人の戯言だ

 

真に価値を産み出せる者だけが,それに見合った報酬を得るべきだ

 

 

そこには甘い言葉で塗り固められた奇麗事や生温さ,偽りの平和は全くありません。感情的になって思考停止し拒絶するか,冷静に事実を事実として受け止められるか,ここは完全に読者の価値観が試される事になるでしょう。

 

 次に,自分がこの作品が人気がのも当然と感じている要素は投資という一見見慣れないテーマを扱いつつ,その中身の文脈は主人公の成長,魅力的なキャラクター達の哲学などまさに王道少年漫画だと言うところです。例を挙げるならば暗殺教室辺りが似た文脈を持っていると言えるでしょう。

 

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

 

 

 

 ドラマ版については,映像作品である事の特性を生かし,専門用語の情報を文字にして映すなど,とことん「伝える」事に特化した作品だったと言えるでしょう。某カードゲームアニメにも見習ってほしいです。

 ややカジュアルな属性が強くなり,1クールで原作完結RTAを求められていたのも影響し少し中身が薄かったのは否定できませんが,最終話で落合博士の言葉で勢いに乗った財前くんの下りは完全に少年漫画の雰囲気を感じてとても良かったと思います。

 

 本作は我々の社会に蔓延している馴れ合いや惰性を許容せず,誰もが思っているけど言い出せない事をハッキリと言い切ります。自分の頭で考える事を止めてしまい,誰かの価値観に無言で従ってしまう事は今の社会の停滞の大きな要因だと私はこの作品から感じとりました。社会を真に良くするためには,

 

  1. 情報を自分から収集してそれを素材に自分なりに吟味,解釈してゆくこと
  2. 一度良心や社会的倫理でNGとされていることを徹底的に排除してみること
  3. 答えが出ない問題に対して考え続ける事を止めないこと

 これらの考え方を大切にして,自ら社会に働きかけていくことが絶対不可欠なのだと思います。