廃虚

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ノーベル経済学賞受賞者著作のFast and Slow 感想

 本作は人間は意思決定を行う際に直感的に認識を誤ることにより判断の誤りを犯してしまう認知的錯覚をテーマとして扱っています。つまり私達が時に客観的に見れば不合理と思えるような行動を取るのは、人間の認識に問題があり、決して貴方だけが浅慮だという事を意味しないのです。

3つの対立構造

 本書ではこの認知的錯覚についてさらに掘り下げていきますが、その軸として

  1. 〈システム1〉と〈システム2〉
  2. 〈エコン〉と〈ヒューマン〉
  3. 〈経験する自己〉と〈記憶する自己〉

を持ちつつ、具体的な事案を挙げながらヒューリスティックとバイアス、行動経済学プロスペクト理論などについて解説していきます。

 

 

 1.一つめのシステム1は自動的に働き、直感的判断と行動を導き、2桁の数字同士の暗算と言ったような複雑な思考を必要とする問題に対しては思考をスローダウンさせて熟慮していきます。しかしこの2つのシステムは相互に影響しておりシステム1によって起こるバイアスの辻褄を合わせるためにもっともらしいストーリーを創る事も十分にあるのです。

 

2.エコンとは、経済学の教科書で定義される「常に合理的な選択を行う経済主体」の事を言い、私たちのような意思の弱い人間とは別の存在として扱います。このことにより標準経済理論で説明できない楽観バイアスなどの事態について行動経済学について説明しようとしています。

 

3. 経験効用とは人が出来事に対して一瞬一瞬毎に感じる満足の事を言い、記憶効用は人が後からその出来事を思い出したときに感じる効用の事を言います。

 本書では人が将来の出来事について決定するときには記憶に基づいて価値を測定し決定を下すとして記憶が決定を支配するとしています。

 

 本著作では人間の意思決定は「90%の確率で〇〇を得る」「10%の確率で何も得られない」など細かい言葉のニュアンスで変わってくる事を数多の実例を挙げて解説しています。そしてその認知的錯覚を直していくのは望み薄だとしています。しかしこの傾向を少なからず自覚していく事で私達が何か決定を下す時に自らを第3者的観点から眺め、合理的判断を下せるように努力していく事が可能になると思います。私達は自分達の種としての性質に向き合う必要が有るのです。

 

ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る

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