廃虚

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シンプルな世界で演出された魔法『ケムリクサ』

たつき監督のけものフレンズ関連ツイートから表沙汰になり、様々な憶測が飛び交った騒動から約1年3ヶ月経ち、1月から放送されていた『ケムリクサ』、遂に最終回を迎えました。当初から毎回放送終了後に多くの人々による考察が行われ、ファンに一体感を与える事で参加意識をもたらし、大きな盛り上がりを与える事ができたように思われます。

 詳細はネタバレのため伏せますが、この作品の舞台は文明が消え、建物は崩落し、「赤虫」と呼ばれる存在が跋扈しており、簡単に言えば「詰んでいる」世界でした。しかしこの作品では、作劇上必要なキャラクターの感情の起伏を示さなければならない場面以外には悲壮感を感じるシーンはほとんど無く、キャラクター達が島を旅する様子を淡々と撮している、ドキュメンタリーに近い雰囲気が形成されています。そして、キャラクター達は危機に直面した時、これからの方針について話し合う時も無闇に対立せず自分のやりたい事、好きなことを伝えながらも皆の好きを大事にして尊重し、課題を解決していきます。これは、近年増えているドラマチック風な展開を羅列し、人間同士の対立を克明にしてジェットコースターのように視聴者を疲れさせる澤野弘之的な添加物盛り作品の対局に位置しています。無駄な要素を排除しているので、「それはもう観たよ…」というシーンも少なかったので、短い動画を斜め視聴するようになった現代人の時代感覚にも適していました。

 

 この作品が人気を得た理由は、必要以上の不快感や複雑さを排除しながらも、ミステリー小説のように世界の正体やケムリクサと呼ばれる葉の設定、主人公の正体など謎が謎を呼ぶ展開を加えることで、視聴者に感情を押し付けないリラックス感と心地のよい、気分のよいワクワク感を与えている事だと思います。現実世界では何かと対立しなければ何かを得る事はできません。それ故に創作の世界では人が対立している姿を観たくないという動機付けが働き、それに見事にマッチしてみせたのでしょう。近藤麻里恵さんの片付け番組がNetflixで大人気になるのと似た理屈かもしれません。

 

 必要な描写だけを凝縮して、作品テーマを一貫させる為に不用な要素を極力排除するという方針は、利権に関わるプレイヤーを少なくした製作方針を取り、関わっている人数が少ないからこそ、製作陣の中で大事にしたいことを共有出来たというのも大きいでしょう。一連の事件から連続して「大きい組織から迫害された少数者が組織に対抗し、最後に勝つ」 という人々が求める文脈に都合よく乗せられた面も有るので複雑ではありますが。

 

 https://gigazine.net/amp/20180312-animation-partnership?__twitter_impression=true

 

最後に、 一連の騒動以降、けものフレンズのファンとヤオヨロズ一派のファンの間で対立が続いている現状があり、下手に「〇〇が好き」と意思表明をするとどちらかの味方として認識され、対立に飲まれる傾向が観測されることは良くないと思います。

 感情に任せ、互いに相手に言わせたい事が決まりきっている状態では建設的な議論など起こりようがありません。

 皆が自分の好きなことに熱中して、誰かの好きを大事にできればもっと世の中が良くなっていくのになあ、と思わされる素晴らしい作品でした。