Chapter2,精密機械
「つまり,僕が使った<ステルラ・フレーム>は有効なカードとしてデータベースに登録されているんですね」
億劫そうに話す怜人。何せ彼はつい最近まで行われた決闘の後,WOTの研究所に案内されて事のあらましを説明されていたのだ。
「うん,私としてもこのような事が起きるとは予想外だったんだけどね。本来ならばデジタルデータベース上に保存されたカードデータが3Dプリンタを通じて紙に出力されるんだが,白紙のカードに何の前触れもなくテキストが出力されるなんて…」
向陽は釈然としない様子で首を傾ける。
「問題は,そのカードが召喚された時に微弱だが精霊が生まれた時と同じ波動が検出されたことなんだ。さらに研究してみれば精霊を生み出しているのが何なのか,あるいは黒幕がいるとするならばそいつもはっきりするかもしれない。」
そう言うと天才は青い瞳をこちらに向け,さらに告げる。
「そういう訳で,これから先君の存在は私達にとって重要なんだ。君がどこまでやれるか,決闘(じっせん)の中で確かめたい。“俺”と決闘してもらいたいんだけど…良いかな?」
OCGの存続の危機の中行動した立役者からの願ってもない挑戦状。怜人は一瞬の間を置いて応えた。
「少し休む時間をいただいてからで良いですか?」
Chapter2.精密機械
外は既に暗黒の幕で覆われていたが,今2人鋼鉄の不夜城は淡い光を放ち,永久機関のように駆動していた。
約束通り2人の決闘が始まる。
「影山社長,それじゃあ先攻は貴方に譲ります」
そう言われると、向陽は苦笑しながら
「向陽で良いよ,俺達の間には元々上下関係なんて無いし、ましてや今からやるのは純粋に互いの能力を競う儀式なんだから。そこに権力や世間様の常識とやらが介在する余地なんか,無い」
と宣言した。この天才は仮初の安寧や表層の関係を許容しない。暗に先程出会ったばかりの少年に告げているのだ。
潰せ,と。
「それじゃあ俺から始めさせてもらおうか」
(とは言ったものの先行か…なんで先行取っちゃったんだろうな…)
向陽は自分の現在使用しているデッキの性質上,選考を取ることは不利になることを強くその身に深く刻んでいたそのため先方の好意を取って先行を取ったことをすでに後悔していたのである。
しかし既に幕は切って落とされた,あとは進むしかない。
「まずはヴェルズ・カストルを召喚」双子座の勇士は幻惑植物を呼び出し,2つの魂は泥酔したバクへと換装される。
「よ,酔ってる…」困惑気味の怜人。それをよそに向陽は一枚伏せてターンを終了させた。
向陽 手札3
あの酩酊したバクは外見とは裏腹に,場を辟易させて圧倒する実力を持っている。その好物とする魂は2つしか無いが,時間稼ぎとしては十二分。その上向陽の使うデッキは【スタンダード】やメタビートの血を引く【ヴェルズ】。
(あの動きだったら初手でオピオンを出してこちらを封殺することも出来たはず。なのにどうしてバクを?)
今バグースカは守備表示を取っている。
(今の僕の手札で対応できるカードは無い…)
「モンスターをセット,ターンエンド。」
冷人 手札5
「へえ,様子見かい?」何の気も無く聞いてみたが応答はない。(バクに対して放置プレイを決め込んだか…あちらも動けるハンドじゃないという事か)
「俺のターン…一枚伏せてエンド」
向陽 手札3
「ドロー…エンド」冷人 手札6
互いに沈黙。
向陽 手札4冷人 手札6
決闘は台風の目に突入し,一見秩序を得たように見える。しかし問題を先送りにした平和は得てしてたやすく覆るもの。
「俺のターン,ここでバグースカは自己凍結だ」
向陽は雷神鳥を呼び出し,セットモンスターを攻撃。(バルブか…まあいい)「一枚伏せてエンド」向陽 手札3
冷人はマンジュゴッドを召喚,太陽神の槍の名を持つ戦士を手札に加え破却することでトリシューラをさらに呼ぶ。タリスマンドラを見せデッキからペンシルベルを呼ぶ。
「おっと,トリシューラで除外されたらたまらない,サンダーバードには避難してもらうか」(おかしい,何故あの人はサンダーバードが優秀な退避効果を持つとは自分から丸腰になるような真似を…?まさかあの3枚の伏せカード)
「…さて,そろそろ満足してもらえたかな?残念ながらノアの箱舟はもう定員オーバーだ」
激 流 葬
大洪水は魔術師団を一斉に押し流す。
(そうだ…僕はあの人がヴェルズデッキを使うと思った時,真っ先にオピオンが来ると考えていた。だから先行1ターン目でバグースカが出てきたとき,チャンスだと感じて先入観にとらわれるあまり向陽さんの伏せカードへの警戒が甘くなっていた…)
「ターンエンド…」冷人 手札6 虎の子である魔神儀による流通も大洪水で使い物にならなくなり,最早冷人に出来ることは無くなっていた。
「俺のターン,それじゃあマンドラゴを召喚,帰還したサンダーバードと共に換装する」2つの魂は無機物となる。
「さて,君はこのカードが出てくるのを恐れてたんだろ?」
伝説の龍の一柱,<ヴェルズ・オピオン>顕現。その権能により強力な星を持つ者達の出陣は封じられることとなる…!
ゲームおいて最も大切なことの一つは「ミスをしない」こと。スタンダードの流れを汲み,相手の出方に対し対応していくヴェルズの様なデッキならなおのことだ。
ダイレクトアタックによりライフポントは削られる。 冷人 LP5450
「オピオンの効果発動,オーバーレイユニットを取り除き汎発感染をサーチ・・・」
それは認められない。ここでそれを認めてしまったらオピオンを止める術はもはやない。その時点でこのゲームの流れはもう取り戻せないーーー!
ただでさえ既にミスをしてしまった直後。早馬のように焦る気持ちを抑え込み,慎重に動く。
「幽鬼うさぎ>の効果をチェーン発動,オピオンを破壊します」
「おいおい,せっかく出したのにもう破壊かよ…」(侵食感染はエクシーズをリリースできないんだよなあ…)
1枚セットしてターンは終了となった。 向陽 手札3
このドローに全てが懸かっている。ここで<あのカード>さえ弾くことができるならば主導権を握る事が出来る…!
「ドロー!」引き当てたのは銀の光を放つ一角獣。自分の道を歩き始めた魔術師を導く新たな星。 「僕は<ステルラ・フレーム>を召喚!効果により汎発感染は無効になる。さらに墓地のバルブを蘇生」 一角獣の持つ7つの星は鋭く光る一番星に導かれ,「PSYフレームロード・Ω」へと繋ぐ。
向陽LP5200 手札3
ここで効果を使えば冷人は丸腰になる。
(どちらにせよリスクには変わりがない,か…)脈打つ鼓動が全身に警報を打ち鳴らし思考回路は鈍っていく。それを打ち払うように冷人は宣言する。
「オメガの効果発動!」除外された手札はケルキオン。
(よし!ここで向陽さんが動けなければ勝てる…!)
「…へえ,ここでΩの効果を使うなんてやるじゃねえか」向陽はその時,本心から笑っていた。今までも柔和な態度を取っていたがそれとは雰囲気が違う,まるで生まれてすぐの,世界中にときめき続ける3歳児の様な表情に見えたのだ。その様子に不思議な感覚を覚えた。
「冷人,俺達は精霊たちを事前に感知するシステムを発見して普及させることでまた皆にデュエルを楽しんでほしいと思っていたんだ。
そして確かに世界中の人たちに真剣勝負のデュエルを楽しむ風潮は戻ってきたんだ。でも,”この街,この国だけは”そうはならなかった」向陽の表情は元に戻っていた。
「この街の人々は今も9年前の事件を忘れることができず,君の父親が言う通り”もう頑張らなくていい””他人を傷つけてまで自分の欲望を叶えようとするのは間違っている”そんな考えに皆は傾倒していって,俺たちが守ろうとしてきた,最高に面白いカードゲームは内輪で盛り上が為のツール,ただのお遊戯会の道具になり下がった。俺はそれが許せない。デュエルでは栄光も喜びも闘うことから逃げない,強い奴だけがすべてを得るべきだ」
そこに立っていたのは正確無比な精密機械では無い。獲物を捕らえ,絶体絶命の極致へと追い込んだ怒り狂う百獣の王。「…長話が過ぎたな,ここからは行動で示す」向陽のターン,彼が引き当てたのは「2枚目のケルキオン」。黄泉の国から剣士を呼び寄せ,剣士はサンダーバードを導く。ケルキオンとカストルは光の皇へと姿を変える。
「これで,詰みだ」
冷人LP0
「負けた…」落ち込む冷人に対し王は言った。
「君はあの時,ケルキオンを除外できない可能性に恐れながらもリスクを取ってΩの効果を使う道を選んだ。それはまさに本気で君は俺に勝とうとした証,俺はその判断に敬意を表したい人々のデュエルへの価値観を変えるためには君の様な人材が必要だ。」冷人はたじろぐ。
「俺たちの方に来て,一緒に革命を起こそう。その為にまずは精霊事件の解決に協力してほしい」
王からの依頼に,冷人は9年前のことに想いを馳せていた。
(あの時僕は何もできなかった,ただ救われるのを待つだけの屑だった。今度こそあの仮面の男のように前に出ることができる,闘うことができる人間になるんだ)
「…わかりました,今は事件を解決するだけで手一杯ですが,自分ができることは何なのか,何がしたいのかその中で見つけていきたいと思います。力不足になるかもしれませんが,こちらこそお願いします」
2人の作り出す世界に圧倒され,最早第3者となっていた光海の入る余地はどこにも存在しなかった。
魔術師が王に導かれ新しい道を踏み出そうとしていたその頃,死神は一角獣に定め動き出そうとしていた…
女々しくて 遊戯王VRAINS 81話 感想
ファイアウォールドラゴン渾身の禁止いかがでしたでしょうか。
さて今回の遊戯王VRAINS。
概要
- 地のイグニス、アースのデータを移植された鬼塚
- 急に仲間面し始める遊作先生
- The近代人鬼塚
今回のVRAINSはPlaymakerと鬼塚の決闘が始まった回でした。捕まったアースがソースコードにコンパイルされた話は了見から聞いていたはずなのにまたしても罠に無策で突っ込んでいく遊作先生達。健盲症なのでしょうか。
インプラントを脳に埋め込み変わり果てた鬼塚に対して、突然仲間として説得し始める遊作先生。今までは素直じゃなかったみたいですが、挑まれたカードゲームを拒否するカードアニメの主人公とは。
決闘ではPlaymakerは〈リンクスレイヤー〉などの高攻撃力のモンスターを並べて一気に決めようとしますが、手札誘発に阻まれる。
そしてアクアからアースに渡されていたカードであるクリスタルハートを使いキングTレッスルを出したところで話は終わりました。
今回はインプラントやイグニスを埋め込んで人間としての性能を越えたはずの鬼塚がPlaymaker個人への勝利に執着するという何とも近代人くさい、女々しい印象が残りました。彼には元々そういう面が一貫して描かれていましたが、人間辞職してまでその性質が残るのは皮肉でしょうか。その割に決闘の強さに具体的にどう影響するのかはよくわからないです。ケースメソッドとしては悪くないのかも知れません。
次回は決闘続き。何やらまたストームアクセス2.0を使うようです。ファイアウォールの代わりでしょうか。
実力主義の社会へ “GAFA 四騎士が創り変えた世界”感想
私たちの生活のスピードはは今やスマートフォンやインターネットが無ければ成立しないものとなっており、今や誰もがGoogleという検索エンジンを使い、Amazonを利用して商品を購入しています。本作で挙げられた4つの企業(Google,Apple,Facebook,Amazon)はこれまで小売業、広告業、出版業などで覇権を握ってきた企業を制覇し、日本に住んでいる私ですらその影響を受けずにいられません。ここから先は、本作で纏められたGAFAの性質に関して整理していきたい。
・コストを最小限に抑え、高く売る
これは主にAppleに当てはまる事です。人類は古くから絵画、車、服などの芸術品に神に関連する高い価値を認め、それを手に入れる為に莫大な資金を費やしてきました。これは冷静に考えれば合理的ではありませんが、「自分は他者より優れている、高い頭脳を持っている」と思われたいという欲望を大抵の人間は持っているのです。
この欲望をAppleは利用しているのです。確かにAppleの製品であるmac,ipad,iphoneは神々しい銀の光を放ち、優れた操作性を有しています。その美しさやブランド力に私たちの下半身は魅了され、例えその価格が他社製品の5倍以上だとしても喉から手が出るほど求めざるを得ないのです。
また、Apple製品に使われる部品は中国の鉱山や日本の工房から送られ、収益はタックスヘイブンであるアイルランドに送られています。こうして、Appleはコストや税金を抑えながら高い収益を得ているのです。
・垂直統合
4騎士は消費者体験を全てコントロールしています。製品の調達、営業、販売、サポートを行う事で流通をコントロールすることに成功しているのです。
・AI
データアクセスと活用能力も重要です。1兆ドル企業は人間がインプットしたデータを学習し、アルゴリズム的に有しています。このデータは最適化により一人一人の需要を把握し、ユーザーは使えば使うほどそのプラットフォームに自分の個人情報や行動内容を提供し、その見返りとして便利な「より素晴らしい」サービスを享受することが出来るのです。最近は中国のHUAWAIの製品に余分なものが入っているというニュースが話題になりましたが、私達はそもそも私達に関する情報をオープンにしていることを忘れてはいけません。
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感想
グローバリゼーションとデジタル技術の発達は4騎士の権力を強め、私たちの生活は彼らに強く寄与しています。彼らの成長はさらなる技術の発展を促進させ、これは「真に価値を産み出し、高い報酬を得る権利を持つ一握りの優秀な人間」と「平凡で生産性が低く、誰にでも出来ることしかできない為いなくても社会の利益は大して減らないゾンビ軍団」に別れる事になるでしょう。
私達はゾンビ軍団になりたくなければ
・当事者意識を持って目の前の課題を解決する
・他者を追い越す競争に勝ち続ける
・ゾンビとの縁を切る
努力を一生、死ぬ気で行う必要が有る事を特に社会に出た後勉強しない、学習しない馬鹿の集まりである我が国の人間は肝に命じるべきです。
ノーベル経済学賞受賞者著作のFast and Slow 感想
本作は人間は意思決定を行う際に直感的に認識を誤ることにより判断の誤りを犯してしまう認知的錯覚をテーマとして扱っています。つまり私達が時に客観的に見れば不合理と思えるような行動を取るのは、人間の認識に問題があり、決して貴方だけが浅慮だという事を意味しないのです。
3つの対立構造
本書ではこの認知的錯覚についてさらに掘り下げていきますが、その軸として
- 〈システム1〉と〈システム2〉
- 〈エコン〉と〈ヒューマン〉
- 〈経験する自己〉と〈記憶する自己〉
を持ちつつ、具体的な事案を挙げながらヒューリスティックとバイアス、行動経済学、プロスペクト理論などについて解説していきます。
ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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1.一つめのシステム1は自動的に働き、直感的判断と行動を導き、2桁の数字同士の暗算と言ったような複雑な思考を必要とする問題に対しては思考をスローダウンさせて熟慮していきます。しかしこの2つのシステムは相互に影響しておりシステム1によって起こるバイアスの辻褄を合わせるためにもっともらしいストーリーを創る事も十分にあるのです。
2.エコンとは、経済学の教科書で定義される「常に合理的な選択を行う経済主体」の事を言い、私たちのような意思の弱い人間とは別の存在として扱います。このことにより標準経済理論で説明できない楽観バイアスなどの事態について行動経済学について説明しようとしています。
3. 経験効用とは人が出来事に対して一瞬一瞬毎に感じる満足の事を言い、記憶効用は人が後からその出来事を思い出したときに感じる効用の事を言います。
本書では人が将来の出来事について決定するときには記憶に基づいて価値を測定し決定を下すとして記憶が決定を支配するとしています。
ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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本著作では人間の意思決定は「90%の確率で〇〇を得る」「10%の確率で何も得られない」など細かい言葉のニュアンスで変わってくる事を数多の実例を挙げて解説しています。そしてその認知的錯覚を直していくのは望み薄だとしています。しかしこの傾向を少なからず自覚していく事で私達が何か決定を下す時に自らを第3者的観点から眺め、合理的判断を下せるように努力していく事が可能になると思います。私達は自分達の種としての性質に向き合う必要が有るのです。
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全て壊すんだ 遊戯王VRAINS 80話感想
ソウルバーナーのストラクにうららが入るだって!?
今回の遊戯王VRAINS。
- ブラッドシェパードVSライトニング後半
- 【ドローン】の融合モンスター登場
感想
えー今回はブラッドシェパードとライトニングの決闘の後半でした。リンクマジックを封じたブラッドシェパードに対してライトニングはリンクモンスターを強化するモンスターを並べて対応。互いにモンスターがいる時にダイレクトアタックが無効になる効果というピンポイント過ぎる効果はゼアリティ高いと感じました。
これに対しブラッドシェパードはドローンモンスターの展開、ダイレクトアタック+ジェネラルのバーン効果、永続罠によるロックに加えフォートレスの融合召喚と畳み掛けますが倒すには至らず。
最後はリンクマジックサポートカードに全てのロックカードを破壊されブラッドシェパードは敗北しました。
今回はどうにも映像的な構図や演出に迫力が無い上に、尺稼ぎみたいなシーンが多くライトニングや彼のデッキの驚異が全く伝わらなかったのが残念だったように思います。道順がエマに急に兄貴面したのも一体どんなお気持ちの変化が有ったのか、それを承認できるようなシーンも無くなあなあで認めた感じになった辺りが吉田さんの悪癖が炸裂したという所です。AIによる社会問題の被害者という設定も結局対イグニスの動機付けの為だけの設定となり、製作側の思想を見せてくれなさそうなのが残念です。
次回は鬼塚5.0とPlaymakerのデュエル。草薙さんの弟は助けなくて良いんです?
1. A/Z
子供たちの笑顔に包まれるような銀景色の未だ残る如月の某日,望月冷人は当惑していた。デュエルスペースに突然落ち武者の姿をした精霊が現れたのだ。
「っ…!!」不幸中の幸いというべきか,そこにいたのは彼とその幼馴染のだけだった。9年前に起きた事件が原因で,OCGは危険視されているからだ。事件から1年後,White Out Technology(WOT)の創設者が発見した新エネルギーの普及により精霊の探知は効率的に行われるようになったものの,保守的な雰囲気の充満するこの国では未だにカードが恐怖の対象として認知されているのだ。そして冷人もその例外とは言えない。
(何とか盤を構えることはできたけど…)
1. AZ
ーーヒトは人間になることにより感性を捨て,互いに溶け合ってあらゆる責任から免れてきた。それは安寧と引き換えに進化を諦める選択,彼らは安らぎ,優しさ,あるいは快楽。それらを追求するあまり湯水のように時間を垂れ流し,とうとうその消費に見合う成果を生み出すことに失敗してしまったのではないのか?ーー
繰り返し夢で語りかけられてきた情報の嵐が怜人の頭を駆け巡る。
――今お前は何をやるべきなんだ?――
(まったく,今日は朝から鬼によく出会う日だ…!)
問いかける声にいつのまにか恐怖は吹き飛ばされていた。
落武者の先行。紫炎の狼煙を挙げ,カゲキを呼び寄せる。さらに門を設置しキザルを召喚。一枚伏せてターンを終了した。
落武者ハンド2 場キザル 門 伏せ1
(いきなり六武の門…初手は様子見か?あの伏せカードがネックになるか…)何とか集中力を飼い慣らし相手の場を洞察する。「僕のターン。マンジュゴッドを召喚し降魔鏡をサーチ。そのまま発動する。」悪魔の姿を映し出す鏡は世界を絶対零度に覆いつくすほどの力を持つ龍の力を宿した勇士を呼び覚ました。
「さあ,合わせて3枚除外してもらおうか」何とか六武衆のプラットフォームである門の除外には成功した。手札から除外されたのは影武者だ。(危ない危ない…相手が慎重で良かった,危うく将軍様がご出陣される所だった,伏せが気になるがここは…)バトル。トリシューラでキザルを殴る!
通った。「続けてマンジュゴッドで直接攻撃。そのままターン終了」
落武者 LP 8000→5800 (このまま押し切れるか…?)手札2
落武者は再び狼煙を挙げ影武者を手札に加える。
(また狼煙か…だがここで紫炎にアクセスしてもトリシューラの方が)
死者蘇生発動。その効果により影の名を冠する忍者は舞い戻りくハツメを呼び寄せる。2人の魂は希望の皇に換装され,光の皇帝にアップデート。絶対の権能を持つ光の一閃はトリシューラを葬った。
冷人LP 5700 落武者ハンド3
(ここでライトニングか…!しかもアイツの手札にはまだ六武衆たちが大量に)
早く決めなければ間違いなくシンクロが飛んでくる---。
冷人の焦燥は止まらない。「儀式の準備を発動。カリスライムをサーチして降魔鏡を回収!そしてカリスライムを見せて手札を墓地に送りブックストーンを特殊召喚。さらに降魔鏡を発動…」
マンジュとブックストーンを生贄にヴァルキュルス降臨。
「バトル!ヴァルキュルスでライトニングを攻撃!」
落武者 LP5300
拙速だという自覚はある。それでもライトニングを残してリンクにアクセスされる可能性と単体のシンクロが飛び出す可能性の苦渋の選択だったのだ。
「ターンエンド…」冷人 手札1
落武者は門を再び発動。ここで最初のターンから伏せていた一手を決める。
諸刃の活人剣術
2人の忍びが再び現れる。さらにカゲキの導きにより大将軍の影武者も登場。現在乗っているカウンターは6。その効果により師範をサーチ。
忍達の生体情報はサーキットに接続され軍将軍へアップデート。3つ目の門が手札に加わる。さらに軍将軍の右下に大将軍紫煙が出陣。そして師範も共に出陣する…!!!
まるで雷の様な用兵門の力で武装を強化した将軍の総攻撃に場は焼け野原と化す。
冷人LP5700→1700
残る手札は一枚。次で決めなければ,一斉放火によって敗北は確定する。
(このまま負けるのか…?いや,ここで負けたら何もわからないまま終わる。それは冗談じゃない。)
脳裏をよぎった黒い光が。あの時何も言わず暴虐を尽くす精霊達を倒していったあの仮面の男の後ろ姿は今でも忘れることができないー
(彼がどこに行ったかは知らないけど,彼のように強くなりたい…!)
カードゲームにおいて一枚のドローは時に大きな運命を引き寄せる。しかしドローーーー不確実な未来と向き合う戦いーーーの舞台に立つことさえできなければ再興の機会は永遠に訪れない,だからーー
だから,とりあえず今を直視して絶望しながら考え続ける。
――ドロー。その時出会った「運命」は,あの時渡された「あのカード」……。
「自分の場ががら空きなので,墓地の影影衣と降魔鏡を除外して反魂術をサーチ
そして…このカードは相手の場にのみモンスターが存在する時,手札から特殊召喚できる」
来い、〈ステルラ・フレーム〉
ステルラ・フレーム
星7 ATK/2500 DEF/2000
光・機械
①このカードは相手の場にモンスターが存在し、自分の場にモンスターが存在しない時手札から特殊召喚できる。
②このカードが召喚、特殊召喚に成功した時,相手フィールド上に表側表示で存在するカード2枚を選んで発動できる。そのカードの効果を無効にする。
青い光を纏った人とも天使とも言えるその巨躯は、大将軍と門の権能を奪う。
「さらに反魂術を発動。失われた邪龍の剣士の魂を若き述師に憑依させる!」
蘇った邪龍の剣士はその権能を以て軍将軍の後方に構える師範を凍結させる。
「バトル。トリシューラで紫炎を攻撃。さらにステルラフレームで軍将軍を攻撃!!」
落武者LP4500
ターンエンド。形勢は逆転したものの,戦場に立つ限り決闘者にはドローという戦いの機会は平等に与えられている。ここで相手に逆転の一手をつかみ取られたら…
武人の腕は自らの運命を試すかのように札を掴み,束から引き抜く。最早両者は運を天に任せる他はない。刹那の間に繰り広げられる2人の意思の交差,賽は投げられた…
武士は動かない。その姿はまるで己の行く末を見極め,すべてを悟った佇まいをしているようにも感じられた。
---ターンエンド。武士の匙を投げる音が聞こえた瞬間,氷の魔術師は紙の束から魔術の札を引き抜く。
一角を持つ鋼の巨躯と剣士の一撃。武士はそれを受け止め,全てを理解したように崩れ落ちた。
「勝った…のか?僕は…?」
冷人は呟き,自らを勝利に導いた札を見つめる。
「9年間白紙だったこのカード,一体なんでさっき書き換わったんだ…?」
「大丈夫だった,冷人…」光海が心配そうに話しかける。さっきまで2人の間に入り込む余地は無かった。
「ああ…うん,お互いに無事でよかった。」
「あのステラル,っていうカードどこで手に入れたの?聞いたことがないカードだったけど」
「それが僕もわからないんだ,今日目が覚めたらこうなってて…端末にはカード情報が載っていたからレギュレーション上の問題は無いと思う」
その瞬間,いくつかの足音が鳴り響く。
「突然精霊が出てきたと聞いて焦ったけど…どうやら無事そうで良かった」
人形のように同じ服を着た数名の人の影から現れる一人の男。
「あなたは…まさかあの…?」
2人の目の前に現れたのは,精霊事件の後にDCエネルギーを発見し精霊探知の技術体系を構築し,OCG存続にも尽力したWTOのCEO,影山向陽だった。
人間なんてオワコンなんだよ! 遊戯王VRAINS 感想 79
ライトニングが引用したのはダンテの『神曲』ですね。
さて今回のVRAINS。
- ブラッドシェパードとライトニングの決闘
が始まりました。
1
ライトニングが使用したテーマ【ケントゥリオ】はフィールド魔法を軸にモンスターを展開していくデッキのようです。初めてフィールド魔法発動時にそれに応じて周囲の風景も変化したのは情けないと言うべきか良かったと言うべきか。
デュエル内容に関してはブラッドシェパードの方はいつも通り先行テンプレ展開という感じです。一応リンクマジックは封じる事ができた(複数積まれている可能性は?)ので次回以降はどうデュエルを組み立てていくのか気になる所です。
因みにケントゥリオというのは古代ローマの百人兵団の統率者の事をいうそうです。ダンテを引用したと思えばローマモチーフなのはぶれている気がしますが、イグニスという語の由来がギリシャにある事を鑑みるに、恐らくギリシャからローマに人類の文明や学門のフロンティアが移り発展していったことを踏まえて、ライトニングが創造主たる鴻上から離れていっている事を意味しているのかも知れません。知るかb()
カードプロテクターインナーガードJr. (対応カードサイズ:86mm×59mm)
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次回はブラッドシェパードが奥の手を出す模様。12/8は四半期以上デュエルをしていないSoulburnerのストラクチャーデッキ
が発売します。販促下手か。