どうして20周年という現象はここまで普遍的なのだろう 劇場版遊戯王『THE DARK SIDE OF DIMENTIONS』
劇場版遊戯王が上映してから早3年が経とうとしています。本作はアニメオリジナルとなった要素が大きい『遊戯王DM』の続編である遊戯王GX以降のアニメシリーズとは切り離された原作完結後の世界、という設定になっています。
当時の自分の中では原作版遊戯王は既に完結したコンテンツであった上に、監督を担当されたのが
- どうでも良いシーンや無駄に吹っ飛ぶシーン等で尺を稼ぐ
- 決闘においては恣意的にデッキのカードを変えるキャラクター達の乱立
- ストーリー面においては自分に酔った偽善者達による傷の舐め合い
という様相を呈していたZEXALの監督だった桑原智さんと発表されとどめに
海馬がバトルシティ後に海馬ランドを世界展開させる事をモクバと約束した事案よりもアテムとの決着を望んでいるらしい
というあらすじを知り、不安材料が満載で辟易気味でしたが《青眼の亜白龍》が前売り券の特典だった事もあり、結局3回観に行きました。ちなみにガンドラ2枚とガイアロードを貰っています。
【#OCG20th】遊戯王OCG20周年記念!
— アニメ「遊☆戯☆王」公式 (@yugioh_anime) 2019年2月5日
2019年2月10日(日)11:00~「アニマックス」サンデースペシャルにて、劇場版「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」TV初放送!!https://t.co/vsFNU3YCn5#遊戯王 #yugioh #モンスターではない神だ pic.twitter.com/SESM30GMf2
所見
結論から言うと本作は
100点中67点
くらいの作品だと思っています。
この作品は『人間が持つ執着心と解放』を、原作において無銘のファラオに人生を大きく変えられる事になった遊戯や海馬のその後、そしてシャーディーへの執着から彼の思想を逸脱していく藍神の3人にレンズを向けて浮かびあげようとしていました。遊戯達が仲間達との絆を重視しながらも、それが良い意味で共感性が低く、自他の違いをしっかりと線引きした上で緩く繋がっていた点は、ファラオとの別れを越えて彼らが問題なく成長できたと言える場面であるでしょう。
海馬に対しては先述した通りファラオが自分に黒星を付けたまま(本人の中では王国編で命乞いして勝ったことはカウントされていないと類推される)冥界を去ったことが癪に障ってしまい、憎しみを捨て次のステージに進むというモクバとの約束も反故にしてしまったかのような姿には違和感を覚えてしまいました。確かに一度も勝てなかった相手に勝ち逃げされるのが認められない、と海馬が感じるのは解らなくもありません。そして劇場版を作る都合上海馬瀬人及び新しい青眼を出さなければならないという商業的な理由もあるでしょう。しかし私には、質量を捨てたカードを使い執着のみを燃料としていたこの作品の海馬瀬人を原作から連続したものとして扱う事は難しかったというのが正直な感想です。
次は全体的な視点から観ていきましょう。この映画ではシャーディーがファラオ復活後に千年アイテムを使って世界を高次元に導くというものでした。ここでいう高次元とは、恐らく遊戯王ZEXALでいうアストラル世界のように肉体の質量を持たない精神体としての生命体の世界だと解釈しています。これは奇しくも海馬の開発したデュエルリンクスのカードデータを脳内に出力して可視化させるネットワークシステムと酷似しています。「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」というアーサー・C・クラークの言葉通り、アプローチの方法が違うだけで目指す所が似通っているというのはオカルトを否定する海馬にとっては皮肉な話でしょう。そしてこのシャーディーの思想を継承するプラナという肉体を持たずして精神体を移動させる能力を持つ人々は現代におけるSNSの延長線上にあると考えられています。そして藍神というキャラクターを通して自分にとって都合の良い存在の利益のみを優先させる排他的な思想を持つ、ある種反知性主義とも言える思想の強化を映そうとしたと言えるでしょう。個人的には同様の事が遊戯王ZEXALにおける主人公、九十九遊馬一派の描写から感じ取られたのは興味深い話ですが…
このシャーディーの肉体を捨てて身体ありきで構築されていた「人間」という概念を超克しようという考え方は藍神の使用デッキのテーマである【方界】が仏教用語に於ける方角を意味する事から事事無碍という全ての事物が相互に融合した世界の在り方から着想を得たのかも知れません。ちなみに現行作である遊戯王VRAINSにおけるボーマンやライトニングも類似した考えを持っています。
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感想
ここからは作品としての感想に移ります。デュエルについては地面からオベリスクの巨神兵をドローする海馬や特にデュエル進行に影響を与えなかった次元領域決闘など頭を抱えたくなるものが多かったです。オベリスクの件については高橋和希氏がアニメをちゃんと観ている事を取入れたかったのかもしれませんが、デッキに入っていないカードを平然と使う姿は極論を言うとバンデット・キースのカード摩り替えと大差ないと感じられました。ですがカードを伏せる枚数をしっかり見せて、口頭で言わずとも視聴者に決闘展開を理解できるようにしていたのは良かったです。
また演出面に関して述べるならば青眼シリーズや方界モンスターのCG技術はとても面白かったですが、ゼアル好きならニヤリとできる無駄な吹っ飛びや召喚前口上、長すぎる召喚シーンはテンポを悪くさせる要因となり見ていて眠くなった事が残念でした。
全体を通して総括するならば世界観は興味深いものだったのですが海馬の思考ロジックが破綻気味になっていたことが気になった映画だったかな、と思います。